7月 浜松町かもめ亭スペシャル
今日はあの中村福助さんがゲストで一席申し上げるサプライズな落語会へ行って来ました。このゲストに相対するは柳家喬太郎師です。喬太郎師と歌舞伎というと、カマ手本忠臣蔵ぐらいしか思い浮かばないという状況で、歌舞伎界のサラブレッドと池袋系芸人の対決はいかに。いったいどうなる?
先ずは前座の立川こはるちゃんの落語で。かもめ亭では前座も時間を多目に割かれるのでまくらでなにか喋んなくちゃならない。「こんな沢山のお客様を前にしてとても緊張しております」初ういしく素直な言葉に和やかな笑いが広がりました。師匠から噺をあげてもらったらここでかけることになっていて、「かもめ亭が続く限り前座として頑張ります。」ときた。それじゃキウイになっちゃうよ。(笑)
噺は「子ほめ」。つい先日談春師に泣かされながらあげてもらったらしいです。談春師ならではのクスグリがところどころに入っていて、当たり前ですが随所に談春師を感じる高座でした。こはるちゃんの演技に笑顔が追加されてとてもよかったです。
次は二つ目の金原亭馬治さん。初めて拝見しました。このあとの福助登場を意識して、鹿芝居のまくらからつないで「笠碁」へ。以前柳家喜多八師のを聴いたけれど、今回は先代金原亭馬生ゆかりのバージョンを聴くことに。とは言っても二席聴いただけで何が分かるというものでもありませんが。へぼ碁仲間の二人が、まったするしないで喧嘩をしてから仲直りまでのストーリーに違いはありませんが、喜多八師はともかく碁がしたい変な老人のおかしさが良かったですが、馬治さんは老人同士の子供っぽいところを残した友情が良かったです。丁寧な一席でした。
そしていよいよ、柳家喬太郎師と中村福助さんによる対談コーナーへ。狭い高座に座布団が二枚敷かれ、まずは喬太郎師が登場。明らかに緊張の面持ちで「とりあえずここはとても座りづらいです」
恐縮至極の喬太郎師の紹介で、いよいよ福助さんが高座に現れました。ごくごく地味な色の着物に袴姿ながら、華やかで上品な空気が辺り一面に漂い、我らのキョンキョンがきゅーっと縮んだように見えました。梨園中の梨園の御曹司はそんな対談相手やお客には頓着しないご様子ながら、「素人なのにプロの方々に挟まれて本当に身の程知らず」みたいなことを言った気がします。先日までコクーン歌舞伎に出て、今度また自身が主役の芝居に出ることになっていてとても忙しく、本当は対談だけで勘弁してもらおうと思っていたけれど、やはり血が騒いで一席やらせていただくということを、聞かれていない内から話してくれました。それからも、ホスト喬太郎師が何か言う間を与えず喋る喋る。そんな福助さんになすすべも無く、表情を七変化させながら聞き役に徹していたキョンキョンがとても面白かった。特に福助さんが「落語のまくらを考えなくちゃいけないのに、家に帰るともう一つの枕につかまってしまう」などという微妙なギャグに困ったような笑顔をするしかなかったところなんぞはとても良かった。
今考えると福助さんなりにテンパッテいたのでしょうか。しかし、歌舞伎界で主役をはり続けるお方に、早々焦りが顔に出るようなことはございません。お顔はあくまで端正で錦絵そのまんまだし、美男子というものは表情が良くわからない。だから始終落ち着き払っているように見えました。そんな美しい顔でじっと見つめられて思わず「そんなに見つめないでください。」と顔を赤らめながら顔をそらすキョンキョンが可愛らしい。ずっと一人で喋り続けるのかと思いきや、唐突に「落語家さんは稽古は部屋の中でするもんなんですか?」キョンキョンに質問。奇襲攻撃に「え?!」と驚きながら「私は歩きながらですかね」
こうして何とか話すチャンスをつかんだキョンキョンが一生懸命トークを成立させようとすると、「話は変わりますが」ってぜんぜん違う話題を喋りだす福助さん。キョンキョンが言葉で抵抗できないので、精一杯表情でアピールしてもぜんぜんお構いなし。いつも主役をはっている人間というものは、自分はいつも発信する役目であり、誰かの言葉を受け取るということには無頓着になるもんなんでしょうか?それとも福助さんだけが天然なんでしょうか?それでも、とても黒門町の文楽が好きで、手ぬぐいを使わず和光のハンカチを持っていることや、芝浜を芝居でやるときに、志ん生が演じるおかみさんの台詞「お前さんを暗いところにやりたくなかったんだよ!」を役作りの参考にしているなど、興味深い話も色々でてきてそれはそれでとても良かったです。
かたや長年磨き抜かれたサラブレッド、かたや落語オ○クのメ○○リックという構図ではありましたが、キョンキョンは存在感では全く負けて無くて私は嬉しかったです。同じ着物姿でも、歌舞伎役者の着こなしと、落語家の着こなしの違いも見えたし。
とても面白いけどかみ合ってはいない対談は30分ほどで終了。次が出番の福助さんは先に下がりました。場つなぎのため残ったキョンキョンの「何もしないのにコロコロ会話が転がるお方」という評は上手いフォローでした。キョンキョンと多くの客(私も)が「そんな人だったんだ~」という、とても意外な感想を持ったことでしょう。あえて言うならまるで、「たらちね」のようでした。最後はTBSの往年の番組「落語特選会」風に「コマーシャルの後は、中村福助さんの「厩火事」をお楽しみください。」
出囃子は黒門町の「野崎」が流れ、袴を取った福助さんが再び登場です。おしとやかにお辞儀する様は、まさに掃き溜めに舞い降りた鶴!そして出て来た声を聴いて驚きました。のけぞっちゃうほどに爺臭い。あえて声をつぶしたのその語りぶりは、なんと黒門町そっくりではありませんか。先代の文楽師を、私は白黒の写真でしか見たことはございません。その写真は、失礼ながらもう宇宙人のような怪老人です。そんな人の老境の声がそれは美しい男性の口から発せられるのですから、見た目と語り口のギャップに思わず失礼なほどに笑ってしまいました。しかも、そのギャップで笑わそうというのでなく、当人はこれこそ本寸法というつもりなのですからちょっと驚きでした。歌舞伎では、昔から伝えられた型を完璧に再現することがとても重要ですが、落語でそれをやっちゃうのがすごいです。しかし、型に選んだのが、少ないもちネタを練りに練りこんだ文楽ですから、それを再現するのは生半可なことでは無理なこと。練習不足なんでしょうか、途中台詞のいい加減なところがちらほら。それじゃ志ん生だよ。後、唐土(中国)を食べるとうもろこしと間違えているお咲さんに、「唐土ってのは今の中華民国のことだよ!」孫文先生ご存命中のギャグですか。当時の時代でしか通じないくすぐりをそのまんまやっちゃってて、歌舞伎はそれで良いが落語となると凄い違和感で笑えました。
それでもしぐさなんかはさすがにきれいで、上手を見るお咲さんの視線がちょうど私の方なので、色っぽいしぐさや白く美しい手を十分堪能できました。落語の総体ははっきり言って「寝床」の旦那状態ですが、(それほど下手じゃないです。)文楽の型を演じる福助というめったに見られない珍品を拝見できてとても満足です。
仲入り後、着替えた喬太郎師が取に登場。最初の台詞が「もういいでしょ」(笑)確かに世にも珍しいも観てしまった後で、ある意味もうおなか一杯です。が、ここは本当の真打の落語を見ないでは帰れません。ということで、トリの噺は「竹の水仙」。師匠の十八番ですが、これはいつかは朝日でもやらなかったっけ?すみれ荘もそうだけど、朝日新聞と文化放送で同じ噺じゃ、文化放送さんに悪くないですか?
宿の主人の気の弱さ、バンジョーのギャグ、キレる侍等々安定した爆笑が起きて、十八番らしくさすがの横綱相撲的高座で会が終了しました。緊張しまくりの師匠、お疲れ様でした。
開口一番 立川こはる 「子ほめ」
金原亭 馬治 「笠碁」
対談 中村 福助 柳家 喬太郎
中村 福助 「厩火事」
仲入り
柳家 喬太郎 「竹の水仙」
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