立川談笑 月例独演会 お江戸日本橋亭
今回はまたしても自分を駆り立てるかのような高座を見ました。これほどに自分のハードルをあげて汗を流し落語を語る人が他におりましょうや?しかしこれには深い訳があったのでした。落語にこめた激しい叫びを聞け!
堀の内 (粗忽話リミックスバージョン)
中入り
黄金餅
本当は詳しく描きたいのですが、1時間分の落語を書くのは大変なので、あらすじだけを。
堀の内へお参りに行くと決めた八五郎だったが、内儀さんはこんな粗忽者しかいない長屋を出て引越しをしたいという。なので引越しをしながらお参りに行けばいいということになり風呂敷に箪笥と長火鉢と薄型テレビ(笑)を包んでお参りに出かけるのであった。
もちろんまっすぐ到着できるはずがなく、神田に行ったり浅草で友達の死体の当人を呼びに行ったり。東京中を歩き回りやっと堀の内へ。
(堀の内から長屋に戻ってきたら家族は引っ越した後でもぬけの殻。引越し先を忘れちゃったので大家に新居に連れてきてもらったところはさすがに省略)
なんだかんだと引越し先まで帰ってきたら内儀さんが早速「釘を打ってくれ」(笑)東京中ずっと箪笥を背負って移動し続けていたのになんという仕打ち(笑)。さすがに談笑さん「本当に少し休ませて」(笑)へとへとなところをやけになって50本も釘を打ち込んでしまい、隣の仏壇がハリネズミ状態。でもよくよく調べたらその仏壇の仏像が矩ゆき作で、中から五十両が出てきて大喜びだった。
重い箪笥を背負って堀の内と粗忽長屋をこなしてきたので汗みどろな八五郎は息子を連れて湯屋へ。しかし大人のお湯やさんへ行っちゃったり、煙突があるからって焼き場で裸になっちゃったり。それでもいよいよ談笑版粗忽の釘のサゲ「弁天様を拝んでる」まで来て終わるかなと思ったら、金坊の野郎が「それで?」(笑)渾身のサゲは湯屋の羽目板に釘を打ちつけて「今度からここに箒を掛けに来る」
ベースに堀の内・粗忽の釘・粗忽長屋を持ってきて、さらに松曳き、粗忽の使者もあらすじには書いてないですが見事にちりばめ、その上蔵前駕籠、浜の矩ゆき、井戸の茶碗もワンポイントに入れてしまうリミックス落語でした。志らく師匠が若旦那を主役にいろいろな落語を組み合わせた「落語長屋」を作りましたがあの時は落語が順にすすんでいくもので、談笑版はさまざまな落語が同時進行しているのでより複雑。志らく師匠のシネマ落語のほうが構造的に似ていますね。家を出てから新居に戻るまでずーーーっと箪笥を背負って移動し続けるという設定が、八五郎の悲劇を観客にリアルに伝えてくれて見ている方もへとへと。しかも3度までも背負っている箪笥を弁当だと思いこむだから八五郎の粗忽はそこが知れない(笑)落語を混ぜるだけにせず、箪笥を背負っている男の一代記という一つの話になっているのがすごいなと思いました。
二席目は黄金餅。ホームレス二なりご飯がずっと食べられない状態が続くと、ある時期から羞恥心や自尊心というものがなくなってしまうらしいと言う話から、この話の住人も同じなのかもしれませんというまくら。
いつもの金兵衛が西念のお金を生前から狙っているという設定が、見るたびに露骨になっていくのがまず笑えました。今回は西念を「ねぇ パパー」と父親呼ばわりして金をせびる始末。
しつこく付け回る金兵衛に見えないように金を餅に包み飲み込んでいた西念は、チャリと銭の音をさせたとたん部屋に飛び込んできた金兵衛に、口に手を突っ込まれ両足を持ち上げられ「出せ!出せ!出せ!」と狼藉されたのが致命傷でとうとう死んでしまう。
家元などは、西念が金を飲み込むのを見て金兵衛は「地獄絵図だね」と言いますが、談笑さんのは金兵衛も地獄の住人なのでそんな客観的な台詞が出て来ないと思われます。
談笑版では、金兵衛が西念の樽を背負って焼き場まで歩く間、西念の骸に向かって「もし俺が逆の立場だったら殺されたってうらまねぇから、俺を許してくれ、この地獄から抜け出させてくれ」と許しを請うのですが、今回はそれに西念を本当に父親みたいに思っていたと告白し、二人でよくこんなところを速く抜け出そうと話し合った思い出を語るシーンが付け足されていました。
これでたっぷりしんみりさせておいて、「許してくれよ、な、西念さん」と語りかけると、死んだはずの西念が「あい」と返事をして息を吹き返したのが分かると、命乞いする西念にひるみもせず首を絞めて止めを刺してしまう。これは好き嫌いが分かれる演出でしょう。私は好きです。人間の業の肯定が落語だというなら、まさしくそれだからです。地獄から抜けられる最後のチャンスかもしれないのだから、あなたはやらないと言い切れますか?
一つ不安なのは、この地獄物語が自分にとっていつまで遠い存在でいられるのかということです。黄金餅は、近未来ではごくリアルな話になるかもしれません。いつまでも落語として笑える時代でいてほしい。
堀の内は体力的に激しく、黄金餅は精神的に激しい話でした。これは談志の落語スピリッツに敬意を表した二席だったのでした。談志スピリッツは、談志師匠がたとえこの世から消えてしまっても永遠に続くのだということを強く思いました。
面白かった話。
談笑さんと談志師匠らで先日浜松の一門会へ行った時、かすれちゃってほとんど声がでない談志師匠が談笑さんへ近づいてきてこう言った「ギトギトしたラーメンが食べたい」(笑)
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